週1社のペースで増え続ける英国のAIベンチャー企業
世界的に人工知能(AI)への関心が高まり、自動運転をはじめとする社会実装が進んでいます。AIは、2016年にグーグルの囲碁向けAI「AlphaGo」が九段の囲碁棋士を破ったことで急速に注目されました。ちなみに、「AlphaGo」がもともとは英国のAI企業、DeepMind社が開発したマシンであることはご存知でしたか?DeepMind社は、2014年1月にグーグルにより買収されて、現在は「Google Deepmind」として知られています。
グーグルやマイクロソフト、IBMのWatson、NVIDIAのグラフィック処理ユニット(以下GPU)など、米国のAI開発が目立ちますが、DeepMind社でみられるように、英国ではAI開発が非常に速いスピードで進んでいます。AIはハードウエアとしてCPU(Central Processing Unit)やGPU、FPGA(Field Programmable Gate Array)などの半導体チップで実現されていますが、消費電力がまだ大きいことが課題です。AIに適した専用の半導体チップを開発すれば、より低い消費電力で学習や推論を実行できるようになります。AIのチップ化で先頭グループにいるのが英国のマンチェスター大学です。既にSpiNNakerと呼ぶAIチップを開発し、10億ニューロン(神経細胞)のシステムを開発するという目標を定めています。英国は実はAI分野の先駆者なのです。
欧州全体のAI企業の半数が英国企業
英国以外の欧州や米国の企業と比べて、英国ではAIに特化した企業が多いことが特長です。
英国のベンチャーキャピタルであるMMC Ventures社(※)が、英国における最新のAIに関する調査レポート「The State of AI 2017 – Inflection Point」を2017年に発表しました。これによると、英国におけるAIのベンチャー企業は急速に増えており、1年前の226社が今や400社にも達するそうです。英国のAIベンチャーの80%以上が企業間取引(Business to Business、以下B2B)にフォーカスしているので、一般の消費者にはあまり知られていないのかもしれません。
※MMC Ventures社は、2000年に創立され、調査に強いベンチャーキャピタルであり、高成長なテクノロジービジネスに投資しています。これまで50社以上のソフトウエアと民生向けインターネット企業に投資してきたMMC Ventures社は2億ポンド以上を所有し、毎年2500万ポンドを投資しています。
英国のAIベンチャー企業は急速に増えている
2010年以前のAI企業は累計で39社しかありませんでしたが、2011年~2013年で101社、2014年~2016年では236社が新たにAI企業として生まれています。
英国のAIベンチャーの中身としては、AIソフトウエア開発のベンチャーの91%が、あるビジネス機能の問題を解決することを目的としており、基本的なAIのコア技術の開発を目指す企業は9%しかありません。また、AI企業の90%はB2Bを目指しており、消費者(Business to Consumer、以下B2C)向け企業は10%しかいません。
英国では金融とヘルスケア分野のAI企業が最も多い
一般にAI企業は、マーケティングと広告の業務に取り組んでいるところが多いです。ITやビジネス・インテリジェンス(BI)、さらにはビジネスデータの分析などの業務においてAIが活用されています。また、英国でAIに取り組む企業が最も多い分野としては金融とヘルスケアで、小売業、メディア、エンターテインメントなどが続きます。
AIを既にビジネスに活用するベンチャー企業が多い英国。日本でも同様にAIへの注目が近年高まってきていますが、日本のAIの研究や商用化は大企業が主導しています。様々なアプリケーション分野で日々実績を積む英国のベンチャー企業、大きなビジネスをAIで創造を目指す日本の大企業。AI分野における英国のベンチャー企業と日本の大企業による協業に今後期待します。
国際技術ジャーナリスト 津田 建二
※英国のベンチャーキャピタルMMC Ventures社による最新のレポートはこちらをご覧ください→ https://www.mmcventures.com/wp-content/uploads/2019/02/The-State-of-AI-2019-Divergence.pdf
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