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英国のBlack History Month 理解を深める出発点は?
インタビュー オックスフォード大学歴史学部博士課程 ウォレン・スタニスロース氏
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来日のきっかけは?
私はロンドン南東部出身で、2006年に高校を卒業した後、ギャップイヤー(大学入学までの休学期間)にボランティアとして初めて日本に来ました。その後、日本に残り、国際基督教大学で学士号を取得しました。日本には10年以上住んでおり、学生として、また社会人として様々な経験をしました。現在はオックスフォード大学歴史学部の博士課程に在籍し、近代日本の文化と思想について研究しています。またオックスフォード大学日本同窓会の会長も務めています。立教大学の非常勤講師として、日本と黒人の接点を探る講座を担当しています。
日本ではどのような経験をされましたか?
日本人は初対面の時に私の出身地がどこか言い当てようと躍起になります。米国、カナダ、フランス、アフリカなど、「暑い」国や大陸の名を挙げますが、英国にたどり着くことはありません。私がイングランド出身だと答えると、暑い国の出身でないことに明らかに驚きます。こうした反応は私が初めて日本に来た2006年からあまり変わっていません。残念ながら、日本の英国に対するイメージにはブラック・ブリトン(アフリカ・カリブ系英国人)は含まれていないのです。
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英国について日本人にどういった点を理解してほしいでしょうか?
ハリー・ポッターからビアトリクス・ポッター、ダウントン・アビーからアビーロード、女王陛下からクィーンにそれぞれ至るまで、英国から伝えられた数々の文化は、日本でとても愛されています。英国人であることが格好いいと思ってくれる日本人が多いので、英国出身であることが有利に働くことがあります。英国といえば、大きなカントリーハウスでアフタヌーンティーを楽しむイメージがありますが、私は英国文化がもっと奥深いことを伝えたいと思っています。皆さんが親しみを感じるこうした英国文化には、かつて英国が植民地支配を進めた時代に、英国が世界中の様々な国との結びつきを繰り返してきたという背景があることを忘れてはいけません。
英国は本当に多様性に富んでおり、私の家族はグローバルな英国を正に体現しています。私はイングランドの生まれです。私の父方はカリブ海沿岸国の出身で、トリニダード・トバゴやグレナダなどの島々から英国にやってきた「ウィンドラッシュ世代」です。母方はスイス人、ドイツ人、ナイジェリア人の血が混ざっています。私の体つきや肌の色、顔立ちには、英国の過去の植民地支配、20世紀の戦争、戦後の移民の歴史、多文化の未来が織り込まれています。私はフル・イングリッシュ・ブレックファストの際は揚げたプランテインを、サンデー・ローストの付け合わせにライス・アンド・ピーズを、ジャークチキンとはジョロフ・ライスを食べ、家族のクリスマスケーキとしてリンツァー・トルテを焼きます。日本人はよく英国の食べ物はおいしくないと言いますが、その多種多様な料理を味わったことがないだけなのです。
英国のBlack History Monthは、人種差別や偏見との闘いを振り返るだけの機会ではありません。黒人や少数民族の英国人たちの英国の文化への多大な貢献を認め、称賛し、紹介する機会でもあります。
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黒人の人々が歩んだ歴史についてもっと知りたいと思います。理解を深めるのにお勧めの方法はありますか?
音楽は素晴らしい出発点となります。トリニダード出身のカリプソ歌手ロード・キッチナーが1948年にエンパイア・ウィンドラッシュ号で英国に到着し、「ロンドンは私の場所」(London Is the Place for Me)と歌って以来、パンクロックからダンスまで、英国の音楽は黒人の文化的伝統に深く影響を受けてきました。今日、ストームジー、ジョルジャ・スミス、RAYE、メイベル、スケプタ、マヘリア、デイヴなどに代表される多くの英国の黒人アーティストたちが英国のチャートを席巻していますが、日本ではあまり知られていません。英国のブラック・ミュージックのジャンルの「グライム」が日本のポップカルチャーからインスピレーションを得ていることを考えると、これはとても意外なことです。
例えば、JMEがポケモンのファンなのはよく知られており、プロデューサーのBlay Visionは日本のビデオゲームやアニメのサウンドをサンプリングしています。
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スポーツも英国の多様性の強みを体現する分野の一つです。黒人の英国スポーツ界の英雄たちは、スポーツの娯楽としての側面を超えて、常に勇敢に自分達のプラットフォームを活用して社会正義に光を当ててきました。ジェシカ・エニス=ヒル選手と モハメド・ファラー選手は2012年のロンドンオリンピックの顔として、英国の多様性を擁護する役割を果たしました。パラリンピックは、誰もが平等に参加する権利を得るための闘いであり、多様性に対するインターセクショナル(交差的)なアプローチの重要性を強調する大きな機会となりました。さらに最近では、マンチェスター・シティのラヒーム・スターリング選手が、人種差別の問題に取り組もうと英国メディアに異議を唱えました。また、マンチェスター・ユナイテッドのマーカス・ラッシュフォード選手の働きかけは、子どもの貧困に関する政策の転換に影響を与えました。
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21世紀に入り、レティーシャ・ライト(『ブラックパンサー』)、ググ・バサ=ロー(『美女と野獣』)、イドリス・エルバ(『刑事ジョン・ルーサー』)、ジョン・ボイエガ(『スター・ウォーズ』)といった黒人の英国俳優たちがハリウッド映画に出演し、世界的に有名になっています。しかし、アジアにおけるハリウッド映画のマーケティングとなると、黒人スターたちは隅に追いやられたり、無視されたりしています。エンターテインメント業界の黒人の英国人たちは、注目され、発言に耳を傾けてもらえるよう闘っています。黒人の英国女性脚本家で女優でもあるミカエラ・コーエルは、懸命に努力し、逆境に打ち勝つことで起業的な成功を収めており、感動を与えてくれます。コーエルの最新ヒット作『アイ・メイ・デストロイ・ユー(I May Destroy You)』は、2020年のBBCとHBOのテレビ・ドラマ・シリーズで、ロンドンを舞台にセクシュアリティ、性的同意、人種、ソーシャルメディアを取り巻く諸問題に踏み込んだ作品です。
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- ミカエラ・コーエル出演のミュージカル Been So Long
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黒人の英国人たちの貢献は、エンターテインメント業界をはるかに超えています。学問を志す私自身にとっても、黒人の英国人の豊かな知性の歴史にスポットが当てられるのは、極めて重要なことです。スチュアート・ホールとポール・ギルロイの画期的な研究から分かるのは、政治、社会、文化を全体としていっそう深く理解するのに、黒人の英国人の視点が重要な役割を果たしていることです。今日、新しい世代の黒人の英国人の知識人が頭角を現しています。その代表として、アフア・ヒルシュ、レニ・エド=ロッジ、デビッド・オルソガ、アカラ、ケヒンデ・アンドリュースが挙げられます。こうした知識人たちは新しい世代に対し、書物、ドキュメンタリー、ジャーナリズム、インタビューを通じて英国の多様でグローバルな過去の失われた側面を明らかにし、いっそう包括的な未来を想像するよう鼓舞しているのです。
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- デービッド・オルソガ著のBlack and British
- アフア・ヒルシュ著のBrit(ish)
- 英国政府出版の外務省における人種の歴史のリポート
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